「広告を回しても、前ほど新規が獲得できなくなった」——D2C界隈でそんな声をよく聞くようになりました。実際、ここ数年でCAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得コスト)は右肩上がりで、広告への不信感も強まっています。Top 10 D2C Marketing Trends for 2026によれば、CACはこの5年で60%以上上昇したそうです。この数字を見ても、「広告だけで新規を刈り取り続ける」モデルはもう限界に近いと、私は思っています。
そんな中、海外のD2Cブランドが広告の代わりに力を入れているのが「コミュニティ」です。今回は、その動きと日本企業の先行事例から、何がヒントになりそうかを私なりに考えてみます。
広告費を減らしてコミュニティに投資したブランドたち
コミュニティプラットフォームを提供するTYB社の事例ページに、いくつかのD2Cブランドの取り組みが紹介されていました。自社発信の数字なので鵜呑みにはできませんが、方向性としては素直に面白いと感じています。
- スキンケアブランドのGlossierは、20万人超のコミュニティ会員を抱え、購入頻度が非会員の3倍、LTV(顧客生涯価値)は立ち上げ後71%増えたとされています。
- ヘアケアブランドのOUAIは、ブラックフライデーの一律値引きをやめ、コミュニティ会員向けの先行アクセス特典に切り替えたところ、特典の利用件数が590%増えたとのことです。
- 炭酸飲料ブランドのPoppiでは、ファンコミュニティでのUGC投稿が25,000件を超えているそうです。
共通しているのは、「広告で新規を刈り取る」のではなく、「ファンに参加してもらい、ファン自身が発信源になる」という発想への転換です。コミュニティ経由で獲得した顧客は解約率が低く、LTVも高くなりやすい——これは複数の海外レポートで繰り返し指摘されているポイントで、ここは素直に説得力があると感じています。
日本企業にも「コミュニティ的な発想」の先行例がある
海外の事例を見ると目新しく感じていますが、正直に言うと「購入後も顧客との接点を持ち続け、ポイントや会員特典で関係を深める」という発想自体は、日本の生活関連サービス企業がずっと以前からやってきたことだと思っています。
一例を挙げると、ある生活関連サービス企業(リアルな接点も持っているサブスク事業)では、会員制サイトを通じて、サブスク商品の交換日や次回受け渡し日の確認、他の自社商品の注文、購入・サブスク継続・サービス利用に応じて貯まる独自ポイント(1ポイント=1円として買い物やサブスク利用料に充当可能)などを提供しており、会員基盤は100万人を超える規模に達しています(※社名・サービス名は伏せています)。
もちろん、厳密に言えば、顧客同士が交流・共創する「オンラインコミュニティ」と、1対1の関係を深める「会員制度・ポイントプログラム」は別物です。それでも、「一度きりの取引で終わらせず、顧客との接点を増やし続けることでロイヤルティを育てる」という狙いは同じです。こうした会員制度・ポイント施策は、コミュニティ戦略が目指すゴールへの先行例、あるいはコミュニティを育てる土台だと捉えるのが実態に近いはずです。広告に頼らず既存顧客との関係を資産化するという発想は、業種を問わず参考になるはずです。
CACが下がる仕組みをどう考えるか
コミュニティ施策がCACを下げるとされる理由は、主に次のような積み重ねです。
- 会員同士の紹介・口コミが、広告費をかけない新規獲得チャネルになる
- 会員が生成するUGC(口コミ投稿やレビュー)が広告クリエイティブの代わりになり、コンテンツ制作コストを抑えられる
- 会員の継続利用率が上がることで、解約分を埋めるための獲得コストそのものが減る
ただし、ここで紹介した海外の数値の多くは、コミュニティツールを提供する企業自身が発信しているものです。第三者の検証がない以上、そのまま鵜呑みにはしない方がいいというのが私のスタンスです。自社で同様の施策を検討するなら、まず小さく始めて自社のデータで効果を測るべきだと思っています。
以前のコラムで取り上げたD2Cの収益性危機とも関係が深い話です。「刈り取り型」の広告運用だけで成長し続けるモデルは、CACの上昇でそもそも利益が出にくくなっています。コミュニティは広告の代替というより、広告費への依存度を下げ、収益構造を立て直すための選択肢の一つだと捉えています。
日本企業がまず始めるとしたら
いきなり海外のようなオンラインコミュニティを立ち上げる必要はありません。まずは手持ちの顧客接点を棚卸しすることから始めれば十分です。
- 既存顧客のうち、商品や自社ブランドについて自発的に発信・レビューしてくれている人を把握する(SNSのタグ付け投稿、口コミサイトのレビューなど)
- 購入後のフォローを「販促メール」から「双方向のやり取り」に変えられる部分がないか見直す(会報誌・LINE公式アカウント・簡単なアンケートなど)
- ポイントや会員ランクなど、すでにある制度を「一度きりの取引を続けてもらうための仕組み」として再設計できないか検討する
広告費をコミュニティにそのまま付け替えるという話ではなく、「既存の顧客接点を、関係を深める方向にどれだけ編み直せるか」が出発点です。
まとめ
広告費が上がり続ける中で、D2Cブランドの関心は「新規を広告で刈り取る」から「既存顧客との関係を深めて、顧客自身に広げてもらう」へと確実にシフトしています。海外のコミュニティ活用はまだ新しい動きですが、日本企業が長年培ってきたポイント・会員制度のノウハウにも、同じ方向性のヒントが眠っている——私はそう見ています。
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